傳田 晴久
 1.     はじめに

2012年8月15日に香港の保釣(日本の尖閣諸島を中国の領土と主張し、領土返還を求めている)活動家たちが釣魚島(中国名)に上陸し、逮捕されましたが、すぐに強制送還されました。同月19日今度は日本の地方議員が海に飛び込み、魚釣島(日本名)に上陸しました。

この尖閣諸島はもともと日本の領土ですが、1971年以降海底資源埋蔵の可能性が指摘されると台湾、中国がそれぞれ領有権を主張し始めました。

台湾に在住している人間として、最近の紛争がどのように報道されているか、お伝えする必要があろうと思い、本台湾通信で取り上げることにし、何時ものように「自由時報」の紙面から気が付いた「見出し」を拾って紹介することにします。

2.      香港の活動家上陸以前の報道

8月13日、「馬英九は東海和平を首唱、五星旗の船は釣魚島に行かせるべきではない」とのタイトルで、台湾安保協会理事長、前駐日代表羅福全氏に対するインタビュー記事を大きく掲げています。

8月14日の記事のタイトルは「香港の保釣船出発、日本は出兵の方針」とあり、外来船の挑発に海上保安庁の巡視船が対応しきれない場合、或いは魚釣島に不法上陸し、付近の武装船を沖縄県警が排除できない場合には、日本政府は自衛隊を出動させる方針を既に決定していると伝えています。

また同記事では、19日に予定されている慰霊祭に超党派国会議員が上陸許可を日本政府に申請しているが、日本政府は中国を刺激し、思わぬ事故の発生を避けるために許可しない方針であると報道しています。

同時に外交部は「政府は最も有効な方法で主権を公示する」というタイトルで馬英九総統が先日発表した「東海和平提案」に基づいて、双方が対話による解決を望むとしています。

8月15日の投書欄に「保釣の謎」と題した投稿があり、今回の保釣船出港は香港特別行政区行政長官梁振英に騙されたのであるという。香港の水上警察が真面目に法を執行すれば保釣船は出港できるはずがなく、新任長官は目眩まし(谷開来事件と中共18大黒箱作業、香港内部問題、汚職、国民教育などの問題)のために民族主義の感情に訴えようとしたのであろう。さらに、保釣船出港は確かにトップニュースで伝えているが、香港人の反応は冷淡である。保釣人士は香港に駐留している共産軍に保釣船の安全保護を願ったが、処理されなかった、云々(投稿者:林保華資深時事評論員)。

同じ日の政治面の記事には「(台湾の)船主は出港を拒み、保釣はまだ出発していない」とあり、台湾の中華保釣協会が船をチャーターして香港の保釣船「啓豊二号」に物資を供給する予定であったが、それを実行しなかったと伝えています。しかし、海岸巡防署(日本の海上保安庁に相当)は香港の保釣船を領海外に追い払う際に、人道的見地から食料を供給したと言います。

3.      香港の活動家上陸直後の報道

8月16日の政治面、大きな活字で「日中双方大使を呼び抗議」、「香港の保釣人士が釣魚台(台湾名)に上陸、14人が逮捕された」と報道しました。「啓豊二号」が日本巡視船の包囲を突破して、14人が五星紅旗、青天白日満地紅旗を翻しながら上陸する写真を大きく掲載しています。そして日本が政府関係者の訪中予定を取り消し、中国側が14人の無条件釈放を要求していると伝えました。同時に緑陣営(政権野党の民進党)は「両岸(台湾と中国)は連携して抗日をやるべきではない」との主張を伝えています。

そして前日(15日)日本交流協会(実質駐台湾日本大使館)に2つのデモがあったことを伝えています。一つは保釣人士による「釣魚台は我らのもの」という日本に対する抗議、もう一つは「慰安婦を応援、婦人団体は日本に謝罪と賠償を求める」というタイトルです。14日に在住日本人に交流協会から「15日、交流協会に300人程度の大規模デモが計画されている」との注意が伝えられましたが、実際には数十人規模のモノであったようです。

8月17日の第一面トップには、「香港人の釣魚島上陸写真、中国のメディアが我が国旗を赤く塗潰した」との大きな活字で、上陸時の写真には台湾の「青天白日満地紅旗」が写っているのに、中国の「厦門商報」紙にはその部分を真っ赤に塗潰してあることを報じています。

同日の焦点ニュース欄に釣魚台情勢として、「香港の保釣人士が台湾の国旗と中国の国旗を振りかざして上陸したことは、国際的には台湾と中国が連携して日本に対抗しているという誤った印象を与えており、政府のやり方は妥当でない」との緑陣営の批判を伝えています。

8月18日の焦点ニュース欄では中国の反日デモの拡大を避けるために日本政府は釣魚台に上陸した14人を空海2つのルートで強制送還したが、石原東京都知事はこれに対し、法治国家を破壊したも同然と批判していると伝えています。また、同欄では馬英九総統は上陸したものは台湾人ではないことを未だ表明していないと批判している。台日の政治状況を知悉している人の意見として、台湾は台日漁業交渉を実質的に進展させるべきであると主張していることなどを伝えています。

8月19日の焦点ニュース欄では中国の釣魚台侵略を想定して、日米が軍事演習を行うと報じています。また日本の国会議員を含む150人が20隻の船に分乗して今日釣魚台に到着すると報じ、香港の保釣人士が10月に再度釣魚島に行く計画であると伝えています。

4.      日本の地方議員上陸時の報道

8月20日の第一面に「日本人釣魚台に上陸、中日の争議拡大」の見出しで、日本人が日の丸を掲げている大きな写真と対日宣戦の標語をかざす中国人の小さな写真を並べて、議員率いる150人の団体が釣魚台海域において慰霊祭を行ったが、その中の10人が泳いで釣魚台に上陸したと報じています。記事の中に、中国が抗議しているが、日本は「国内問題」として受理しない予定としています。

同日の焦点ニュース欄では「スローガン保釣?」として、政府高官が「東海和平提案」はスローガンではなく、実質的な内容があると強調したと報じている。また宜蘭県の議員もまた釣魚台に上陸する計画をしているという。

同日の投書欄に一市民からの「漁業権に焦点を合わせるのが賢い行動である」として、1884年に日本人古賀辰四郎が島の開拓をはじめ、1895年1月に日本政府が領有を宣言した歴史を挙げ、さらにその年の3月に清国が台湾を日本に割譲して以来1970年までの75年間に中華民国も中華人民共和国も共に尖閣諸島の領有を主張したことがない事を述べ、中国は1971年、海底資源の可能性を知り、「胃口大開」(食欲が旺盛になる)して初めて領有権を主張した。李登輝元総統がかつて「尖閣諸島は日本の領土で、台湾とは漁業権の問題だけが存在する」と言ったと述べています。

8月21日の政治面:東京都は上陸許可を申請したが、日本政府は文書の不備を理由に受理しなかった、上陸した10人は不起訴のなる見通しと報道。一方、中国の反日デモは一部に共産党打倒を叫ぶ民衆がいるとも伝えています。

8月22日の政治面では馬英九総統がNHKの独占インタビューに応じ、中国と連携すること  はないと重ねて主張し、釣魚台の紛争は国際法を以って平和的に解決する方法がないかと述べたと伝えました。

 8月23日の国際ニュース欄では米国の戦略学者の話として、中日が海上で戦うならば、艦船の数では中国が勝っているが、日本は人材面、地の利に於いて勝り、米軍の協力がなくとも日本は辛勝するであろうし、中国がたとえ勝つとしてもその国力に甚大な損失を及ぼすであろうと伝えています。

8月24日の政治面に「馬英九が台湾は中国と連携して日本に対抗するものではないと言ったばかりだが・・・・釣魚台問題について、国台弁(国務院台湾事務弁公室)は両岸には共通認識があると述べた」とあり、中国の王毅国台弁主任の発言と台湾の劉徳勲大陸委員会副主任委員の発言の違いを紹介しています。

また、投書欄には「釣魚台を中国に蹴り与えるのか?」と題して、馬英九総統がNHKのインタビューで日韓獨(竹)島争議のように国際司法裁判所で解決したいとの発言に対して、台湾の国際法人格有無を取り上げ、批判しています。

5.      おわりに

以上、今回の尖閣諸島への中国人上陸、日本の地方議員上陸について、台湾の自由時報紙がどのように報道したか、目についた記事のタイトルを拾いながら紹介しましたが、メディアが報道する夥しい量のニュースの一部を拾ったものにすぎないことをお断りいたします。

それにしても、国内の不満や鬱憤を晴らすために、隣国に押しかけて騒ぎを起こすやり方は、春秋戦国時代からの伝統でしょうか、まぁ、欧米もそうでしょうが、騒ぎを仕掛けられる側としては迷惑な話です。尖閣諸島海域では100年も前から台湾の漁民が漁をしていたと聞きますので、主権の問題は絶対に譲れないにしても、漁業権については交渉が可能と思われます。とはいえ、台湾漁民の漁業権交渉をどの国と行うのでしょう。これまた頭の痛い問題です。

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