日本李登輝友の会は日本の戸籍において台湾出身者の国籍が「中国」とされている現状
の理不尽を解決するため、外登証問題が解決した平成22(2010)年秋から、その元凶であ
る民事局長通達の出し直しを法務省に求めている。

 日本李登輝友の会事務局は、なぜ「中国」から「台湾」に変更しなければならないかを
解説した一文を作成した。ご参考に供したい。

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◆現況

 台湾出身者が日本人との結婚や養子縁組をする場合、または日本に帰化するなど、その
身分に変動があった場合、戸籍における国籍や出生地は「台湾」ではなく「中国」や「中
国台湾省」と表記される。戸籍は法務省民事局が管掌し、戸籍事務は地方自治体が法定受
託事務として処理している。

◆経緯

・昭和27(1952)年4月28日、日本が中華民国と「日華平和条約」に署名し、前年9月8日に
 署名のサンフランシスコ講和条約が発効したこの日、外国人登録令(昭和22年公布・施
 行)が廃止され「外国人登録法」を制定、台湾出身者は中華民国(中国)の国民とみな
 され国籍を「中国」と表記。

・昭和39(1964)年6月19日、法務省民事局は、東京法務局長から「中国本土で出生又は死
 亡した者についての出生又は死亡の場所の戸籍記載を、 『中華人民共和国……』と記載
 するよう強く希望する者」があるが、日本は中華人民共和国を未承認であることから、
 その「要望による取扱いは認められないと考えますが」、しかし「中華民国は事実上台
 湾と中国本土とに分離している実情からして『中華民国』と記載することに統一するこ
 とは疑問であり、むしろ中国本土及び台湾を区別することなくすべて『中国』と記載す
 るのが適当と考えられます」という照会を受け、中華民国出身者も中華人民共和国出身
 者も戸籍の国籍を「中国」とする法務省民事局長の通達「中華民国の国籍の表示を『中
 国』と記載することについて」を地方法務局長に送達。

・昭和47(1972)年9月29日、日本は中国と「日中共同声明」を発表し国交を樹立するが、
 台湾出身者はこれ以降も国籍は「中国」のまま現在に至る。

◆問題点

1 法務省民事局長の通達が出されたのは、日本が国連加盟国でかつ常任理事国の中華民
 国を「中国」唯一の政府と認めてと国交を保っていた時期。しかし、日本は昭和47(19
 72)年9月に中華人民共和国を「中国の唯一の合法政府であることを承認」する「日中共
 同声明」をもって国交を樹立し、中華民国とは国交を断絶。

2 その後、台湾では李登輝総統時代に民主化と本土化が進み、平成15(2003)年9月1日
 に中華民国政府はパスポートに「TAIWAN」と付記。

3 一方、日本も台湾と中国を区別するようになり、平成14(2002)年5月14日、日本は米
 国とともに台湾の世界保健機関(WHO)へのオブザーバー参加を支持。
  また、平成15(2003)年12月12日には、交流協会台北事務所が中国の猛反対を押し切
 り、在外公館が年に1度、その国の要人を招待して開催する日本のナショナルデーである
 「天皇誕生日祝賀会」を台湾で再開。以後、毎年開催。
  平成17(2005)年4月29日には台湾における叙勲を復活、日本語教育に功績を残した蔡
 茂豊氏が旭日中綬章を受章。以後、本年春までに16名が叙勲。
  さらに、同年9月26日、愛知万博の直後、日本政府は台湾からの観光客に対するビザ免
 除を恒久化。平成19(2007)年9月21日には、台湾と「運転免許証の相互承認」を実施
 し、平成20(2008)年10月1日からは運転免許証の切替も可能になった。しかし、日本は
 中国とは未だにビザ免除恒久化も運転免許証の相互承認も運転免許証切替措置も行われ
 ていない。

4 台湾を中国と区別して台湾として認める傾向はさらに顕著となり、東京都は台湾への
 転出、台湾からの転入の場合、住民基本台帳の記載事項の「従前の住所」の記載につい
 て、昭和62年の通知が現状に即して正確ではないとの判断から、平成20(2008)年5月30
 日、住民基本台帳に「台湾」表記を認めてもよいとする通達を区市町村に送付。これに
 対して台湾政府は6月8日、「対岸と明確な区別がつき、混乱が避けられ、東京都におけ
 る僑民の利益が保障される」として歓迎表明。この東京都の通達は他の自治体にも波及。

5 以前から台湾出身者の国籍を「中国」としていることに対して「台湾」への改正要望
 が出ていた外国人登録証明書(外登証)問題において、平成21(2009)年3月6日、3年以
 内に実施する在留カードにおける台湾出身者の「国籍・地域」表記を「中国」から「台
 湾」に変更することを盛り込んだ「出入国管理及び難民認定法」(出入国管理及び難民
 認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関す
 る特例法の一部を改正する等の法律案)が内閣提出法律案として衆参両院に提出。同年7
 月8日、同改正法案が可決され7月15日に公布。
  3年後の平成24(2012)年7月9日、外登証が廃止され、新たに在留カードが交付。台湾
 出身者の「国籍・地域」表記は「中国」から「台湾」となり、同日実施の外国人住民基
 本台帳でも台湾出身者の「国籍・地域」欄は「台湾」と表記。

6 台湾側も在留カードの台湾表記を歓迎し、馬英九総統は2010(平成22)年11月、日台
 関係の改善および深化状況について「青年ワーキングホリデー協定の締結、台北駐日経
 済文化代表処札幌分処の開設、日本に居住するわが国国民の国籍欄の名称記載問題解決
 といった具体的な成果を得た」と表明。また、馮寄台・前台北駐日経済文化代表処代表
 も2011(平成23)年1月の新年祝賀会の席上、「在日台湾人の外国人登録に関する証明書
 の国籍欄が『中国』から『台湾』への変更」を「成果」として強調。

 以上、住民基本台帳における台湾への転出、台湾からの転入の際の台湾表記(地方自治
体)、在留カード(法務省入国管理局)や外国人住民基本台帳(総務省)における台湾出
身者の台湾表記など、日本では台湾と中国を区別して表記する傾向が顕著になっている。

 運転免許証(国土交通省)においても、台湾出身者の本籍蘭は「中国」とされてきた
が、近年は空白とする措置が取られていた(2010年からはIC化により本籍欄は消滅)。
しかし、戸籍では台湾出身者は依然として「中国」とされている。

 そこで、国会でも昨年からこの戸籍問題を解決しようという動きが起こった。

 まず、平成23(2011)年7月27日、中津川博郷・衆院議員が衆院外交委員会において質
疑。国会で台湾出身者の戸籍問題が審議されたのは初めて。中津川議員は「台湾出身者の
戸籍の国籍欄や出生地欄で『中国』あるいは『中国台湾省』とされていて、非現実的な記
載がされているのはおかしい」と指摘。これに対して、法務省の小川敏夫副大臣は「日本
の国籍表示において台湾を認めるか否かは、台湾に対するわが国の立場を踏まえて慎重に
検討する必要がある」と答弁。

 また、同年8月9日、大江康弘・参院議員が「戸籍における台湾出身者の国籍表記に関す
る質問主意書」を提出。菅直人総理からの「答弁書」は、台湾出身者の国籍や出生地を
「中国」や「中国台湾省」と表記するのは、昭和39年6月19日付で出された法務省民事局長
による「中華民国の国籍の表示を「中国」と記載することについて」という通達が根拠に
なっていることを認めたものの、台湾出身者の国籍を「中国」としていることは「我が国
が国家として承認しているところの『中国』を指すものであり、このような取り扱いに問
題があるとは考えていない」と答弁。

 日本が「政府承認」している「中国」とは中華人民共和国で、外務省の説明によれば、
「国家承認」している「中国」は明治時代にまでさかのぼるとされ、現在の中国大陸や台
湾を含む地域とされている。

 しかし、実際の戸籍では「出生地」として「中国台湾省」と表記されている。つまり、
現在の台湾(中華民国)では「台湾省」という行政区は機能停止状態にあり、一方、「台
湾省」という行政区を設置しているのは中華人民共和国なので、日本の戸籍では未だに台
湾出身者を「中国人」としているのが現状だ。

 戸籍は出生や婚姻、国籍など個人の身分関係を明確にすることを目的として設けられて
いるのだから、台湾出身者の国籍を中国としていたのでは、日本人の身分関係を明確に把
握できない。

 よって、すでに在留カードや外国人住民基本台帳の「国籍・地域」欄で台湾出身者は
「台湾」と表記されているのであるから、表示の整合性を図るためにも、また、このまま
放置しておけば中国の主張を受け入れているとみなされかねず、法務省は早急に民事局長
通達を出し直し、台湾出身者は「台湾」と表記すべきである。

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