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第五議・・古来の律令を折衷し、新に無窮の大典を撰定すべき事。

 国の基本法たる憲法をどうするかは、今日の日本にとって大きな課題でしょう。皆さんもご承知の通り、戦勝国アメリカが、日本を二度と軍事大国にさせないために押し付けたのが、現在の日本国憲法です。日本国憲法の第九条は、日本の再軍備を禁止しています。そのため、日本はアメリカに安全保障を依存することになりました。

 しかし、その実、日本の自衛隊は種々の軍事行動をアメリカの必要に応じて要請されるようになっている、いわばアメリカに、いいように使われるというのが実情ではないでしょうか。
  
 うずくまり、行動を起こさない日本政府に対し、多くの、心ある有識者が「アメリカにノーと言える日本を」と求めていますが、日本のひ弱な指導者たちは、こうした意見を理解しようとせず、理解したとしても行動を起こす勇気もありません。気骨なき政治家ばかりで、日本は大丈夫なのでしょうか。

 日本が真に自立するために何が必要であるか、歴史をふまえ、その具体策を検討する必要があります。その際、憲法問題を避けて通ることはできないように思われます。

 日本では、「国民投票法」の本格的な施行(しこう)が来年に迫っているにもかかわらず、憲法審査会も機能を開始しておらず、いわば、頓挫(とんざ)しているようです。今回の衆議院選挙でも、憲法問題が本格的に論じられることはありませんでした。私の見るところ、国民の間でも、憲法問題は、ほとんど論じられず、むしろ、忘れ去られているような感じすらします。このような日本国民の憲法問題に対する無関心が、次第に「日本人としてのアイデンティティ」を不明確にさせ、国民の精神にも大きな影響を与えていくと私は感じています。

 六十年以上も一字一句、改正も変更もされないのは、私には、異常としか思えません。歴史は移り変わり、時代は変化し、日本および日本の皆さんが置かれた状況も大きく異なってきているにもかかわらず、国家の根幹である憲法を放置していては、日本国家は遠からず、世界の動き、時代の動きに取り残され、衰退し始めるのではないでしょうか。
 

 第六議・・海軍宜しく拡張すべき事。
 近年、海洋国家日本が直面する世界の情勢は急速に変化しています。アメリカ一極支配が終わりを告げ、五~六の地域大国がしのぎを削る多極化世界に移りつつあります。特に西太平洋の主導権争いは、中国の軍事的膨張により、米国に大きな負担を強いています。
 こうした状況下で、日米同盟をいかに運用すべきか、日本がどのような役割を担うべきか、あらためて問われています。日本の民主党は、アメリカとの間で、率直な対話に基づく対等なパートナーシップを築くことを目指しているようです。その考え方は、おおいに評価されるべきだと思います。

 今こそ日本は、日米関係の重要さを前提にしつつ、日米同盟のあり方を根本的に考え直す必要があります。現在の日米同盟は、あまりにも片務的ではないか、日本が負担を背負いすぎているのではないかと思うのは、私だけでしょうか。若い皆さんはどのようにお考えでしょうか。


 第七議・・御親兵を置き、帝都を守衛せしむべき事。
 もともとは防衛の重要性を述べたものですが、ここでは少し視点を変えて、日本防衛にとっても、大きな影響を持つ台湾の動向について述べることにしましょう。台湾の変化に気を配らなければ、日本にとって思わぬ危険を見落とすことになるからです。
  私が総統時代に掲げた「台湾アイデンティティの確立」に基づいて、台湾は民主化と近代化に向けて、大きく舵を切りました。しかし、残念ながら、二〇〇〇年以後の三回にわたる総統選挙で、台湾の民主化は進歩どころか、後退してしまっています。

 先日亡くなった『文明の衝突』で有名なハーバード大学のサミュエル・ハンチンチントン教授が指摘したような、民主化への反動が生じているのです。民主化に反対する保守派が政権を掌握し、皇帝型統治による腐敗が続き、政府による国民の権利の侵害が行われています。「台湾アイデンティティ」に逆行した中華思想の浸透もはかられています。台湾政治が、今中国に傾き、ゆがみ始めていることは間違いありません。
  
 今回の台風被害への対処にみられるように、現政権において、国民の側に立った政治が行なわれていないことを私は憂えています。
 私は、台湾にとってはもちろん、日本の繁栄と安全を確保するためにも、日台の経済関係を安定させ、文化交流を促進し、日本と台湾の人々の間の心の絆を固めることが不可欠と考えています。日本の指導者の方々には、「東アジア共同体」という枠組みを考える前に、崩れつつある日台関係の再構築と強化に、積極的に力を注いでいただきたく思います。

 日本が台湾を、もし軽視でもするようなことになれば、それはたちまちのうちに、日本の国の危機を意味することを認識しておかなければなりません。地政学的にも、台湾は、いわば日本の命運を握っているといっても過言ではないと思います。

 このことは、もっと日本の指導者の方々は真剣に考える必要があるのではないでしょうか。「木を見て森を見ない」外交政策は、日本に重大な問題をもたらすこと必定と、私は考えています。


 第八議・・金銀物貨宜しく外国と平均の法を設くべき事。
 最後に、経済政策について申し上げましょう。私のみるところ、日本経済が「失われた十年」の大不況にみまわれた根本原因は、日本の金融政策を担う日本銀行が、一九九〇年代以降間違ったマネジメント、総量規制などをおこなったことにあります。 
 その後日本経済は一時的に回復しましたが、その際の経済成長はあくまで輸出に頼ったものでした。国家的プロジェクトをつくり、さまざまな分野で世界をリードするイノべーションに国家をあげて取り組むべきところを、実際には、ほとんど取り組まず、また、国内の需要不足という根本問題を放置したまま、日本は、昨年秋のリーマン・ショック以降の世界金融危機を迎えることになったのです。
 
 経済の苦境を打開するには、日本は、インフレ目標を設定するなど、大胆な金融策を採用すべきでしょう。同時に大規模な財政出動によって経済を強化することも必要かもしれません。

 日本は莫大な個人金融資産を抱える国です。この金融資産が投資資金として市場にきちんと流れる道筋をつくることが重要です。そのためには、国民の将来不安、すなわち、老後の不安をいかに解消させるか、老後の医療、年金、介護などの、「老後安心政策」を、政治家の人たちは、明確に打ち出す必要があるでしょう。そうなれば、高齢者は安心して個人の金融資産を市場に提供するようになるでしょう。
 加えて、日本国内だけでなく、海外に対する投資も進めていかなければなりません。それにより、日本は世界経済に大きな貢献をすることになるはずです。


 五、結び
 以上、坂本竜馬の「船中八策」になぞらえて、現在の日本政治改革の要点を述べてまいりました。言うまでもなく、明治時代と平成の現在とでは政治・社会・経済・外交の各面で、大きく実情は異なっています。しかし、「船中八策」を道標(みちしるべ)とし、それを再検討することにより、今日の日本の青年が、誇りと自信をもって、現実的実践による改革を進めることができるものと私は確信しています。

 政治はつねに改革され続けなければなりません。日本は今、明治維新以来最大の改革をしなければならないときだと思います。

 しかし、この改革を為し遂げるためには若い皆さん方が志を{・ュもって行動することが不可欠です。すばらしい日本を築くため、若い皆さん方が立ちあがり、行動を開始されることを、私は心から期待しています。

 加えて、東アジアの一層の安定平和のために、台湾と日本のさらによい関係を構築していただきたい。アジアおよび世界の平和のために、ぜひ、日本の若い皆さんたちが、高い志を持って、積極的に台湾の若者たちと力と心を合せてくださることを切にお願いし、私の皆さんたちへの、私の思いを込めたお話とさせて頂きます。

 ご清聴ありがとうございました。

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