【台湾ダイジェスト:7月号】

                     (ジャーナリスト・迫田勝敏)

 「教科書問題の重要性は米国産牛肉に劣るものではない。牛肉の添加剤は肉体の生理に
害を与えるが、教科書の害は脳の中枢神経と魂にまで及ぶ」―歴史教科書問題の記者会見
で台北教育大学の李筱峰教授は馬英九総統主導で歴史教科書が改訂されようとしているこ
とに慨嘆した。その歴史教科書は7月には確定し、9月の新学期から正式に教科書として教
室に配布される。

◆教科書改訂に政治の影が

 歴史教科書はどこの国でもその時々の政治の「影」がかかる。台湾の場合はそれがさら
に濃厚になる。戒厳令時代に終止符を打って、台湾の民主化が始まり、李登輝総統の誕生
で、「認識台湾」が登場し、それまで中国史の一部でしかなかった台湾の歴史を真正面か
ら取り上げた教科書ができた。

 民進党が2000年に政権を取ると、歴史教科書の上でも中国色を消す「去中国化」が進ん
だ。中国史から台湾史を完全に切り離した。孫文が辛亥革命を指導し、中華民国を創立し
た史実は台湾史ではなく、中国史の範疇に入れた。敗戦で日本が台湾を放棄し、条約には
返還先を明記していないことから言われる国際法上の「台湾の地位未定論」も教科書に書
き込んだ。

 こうした歴史教育の成果だろう、今の若者の間では自分は「台湾人であり、中国人では
ない」、「台湾は中国の一部ではない」という「台湾意識」が、広がっている。これは国
民党独裁時代に教育を受け、今でも無意識のうちに「我々中国人は…」と言う中年世代と
は明らかに違う。

◆歴史に逆行する「去台湾化」

 この風潮を苦々しく思ってか、馬総統は政権を握ると、早速、教科書の改訂作業を始め
た。日本の学習指導要綱にあたる課程要綱(課綱)は一昨年改訂し、台湾史、中国史、世
界史の授業時間の比率をこれまでの1対1対2から1対1・5対1・5に変えた。台湾史の比率は
変わらないが、中国史の比率は5割増。これは相対的に台湾色を減らす「去台湾化」、つま
りは「中国化」で、これまでの教科書の歴史に逆行する。

 その中身。国としての台湾をいう時は「中華民国」、中国と対比して言う時は「台湾地
区」と「大陸地区」など「中華民国」が強調され、中華文化を主体とするのが原則…。台
湾と中国の一体化が促進される。

 それでも国民党陣営には不満。国民党の機関紙だった中央日報は現状の歴史教育を嘆き
「自分は台湾人であり、中国人でもあると認めるようにすべき。『去中国化』は両岸関係
の未来にマイナスの影響を与えるだけだ」と書き、将来の統一を見据えた教科書改訂を求
めている。中国はこれに大賛成。国務院台湾弁公室は「台湾独立の角度から書いた歴史教
科書は次の世代の台湾同胞をミスリードする。民進党時代に改訂した教科書は正しく直す
べきだ」と声援を送っている。

◆改訂委員人事に「政治介入」

 中国の後押しに勢いを得てか、教育部の改訂作業は急速に「去台湾化」しているよう
だ。一昨年の課綱策定委員会のメンバーだった台湾師範大教授は、歴史とは関係ない、政
治専門の学者が委員になり、中国化を主張し、委員会をかきまわしたと明かす。その委員
は「教育部長以上の高官が事実上任命した」とも。中国化に反対する委員たちは再任され
ずにクビ。以後、中国史を増やし、世界史を減らすことが決まった。事実なら、これは教
科書作りへの「政治介入」でしかない。

 問題の委員は「台湾大学の政治学部の教授だ」と民進党の鄭麗君立法委員は記者会見で
明かした。その教授は「両岸統合学会」の会員。この学会は中台の「文化共同体」の構築
を提唱しており、中国が世界規模で展開している語学教育の「孔子学院」の運営に台湾が
参加することも提案している。馬政権は経済の共同市場を目指してECFAに調印した。
両岸統合学会の提唱は、いわば文化版のECFA。その一つの方策が歴史教科書を「去台
湾化」することなのだろう。

◆「脳と魂も中国化する」

 冒頭の記者会見は台湾歴史学会などが開いたものだが、会見場に記者の姿はちらほら。
テレビカメラはなかった。李教授の慨嘆は実はむしろそのメディアの少なさにあった。米
国産牛肉の問題は集中取材するが、教科書問題は無関心に近い。その間に馬政権は着々と
歴史教育を通じて台湾人の「脳と魂」まで中国化し、「終極統一」に向かっている。だか
ら李教授は「台湾人よ、目覚めよ」と嘆き、呼びかけるのである。

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