台湾の馬英九氏は、5月20日で総統就任1周年を迎えた。馬総統の政策
は、まず中台の緊張緩和、「一つの中国」化の推進などである。台湾は中国
側の意に添った統一化を着々と受け入れているかに見える。

 馬政権の公約である「三通」(中台間の直接の通商、通航、通信)の実現
により中台経済は急速に活溌な動きを見せ始めている。台湾は輸出依存
国であり、米国への輸出激減から、対中輸出に傾くのは必然の成り行きで
あった。しかし中国は3400万人の「失業大軍」や解放軍の軍事費増大、
保有する米国債や金融債権など多くの爆弾を抱えている。

 中国はいつ何が起こるか分からない状態にあり、台湾としてはしばらく様
子を見ながら行動する慎重さが問われていよう。しかしながら、馬政権の対
中傾斜をコントロールするはずの野党・民進党が死に体のうえ機能不全で
は、話にもならない。中国は馬政権を経済と外交で支援し、統一化を固め
る動きが顕著だ。


中台経済関係の強化


 台湾の尹経済部長は「中国は台湾経済にとって重要な市場であり、競争
と協力によって共存共栄を推し進めることで相乗効果を実現できる」と語っ
た。台湾の対中投資は巨額であり、中国で100万人以上の台湾人が暮ら
すなど、人的交流も拡大の一途をたどっている。

「三通」の解禁以降、航空分野ではチャーター便枠が週108便から270便
に増加、今後は定期便になろう。航空貨物や海運直行便も拡大され、人・
物・カネの流れが一気に加速しよう。さらに銀行・証券・保険分野の相互進
出により、自由な営業活動ができるようになった。

 また金融・資本の台湾投資の解禁が合意され、中国資本による台湾企業
への投資が高まりつつある。すでに台湾のマスメディアに中国系資本が加
わり、「自由時報」以外はすべて中国系になりつつあるという。政治、マスメ
ディアの外堀が完全に埋め尽くされれば、中台統一がいっそう早くなるのは
確実だ。


台湾国民の株好き


「三通」の利便性と経済開放により、観光客が一気に押し寄せてきた。定期
チャーター便の増便によって中国からの台湾ツアーが解禁となり、今年の
正月期間だけで510団体、13500人が台湾を訪問した。だがこれらは一時
的な現象であり、台湾経済に実質的な影響を与えていない。

 これだけ台中接近を急ぎ、経済の活性化を促してきた馬政権であるが、
米国の金融破綻と景気後退の影響もあり、失業率は今年2月に5.75%と
過去最高を記録した。いくら中国経済に期待しても、GDP成長率は昨年暮
れで8.4%、これも過去最悪である。企業の倒産やシャッターを閉じる商店
も相次ぎ、評判の「台湾名物」足裏マッサージの客も激減だ。

 中台接近の緊密化と拡大にもかかわらず、一向に景気が良くならないこ
とに、台湾住民からの不満の声が噴出している。不満解消には、内外資金
の導入で株価を一気に押し上げることが効果的であり、この半年で株価は
61%上昇した。台湾では人口の40%が株式投資に関わっており、株価問
題が政権の行方を左右する。


中国化の加速


 馬政権の政策の柱は、中台経済との緊密化による台湾経済の建て直し
だ。台湾にとって中国が最大の輸出国であり、輸入国である。それゆえ今
後とも「共存共栄」は不可欠だ。台湾全人口の2300万人の中で12.5%
の外省人が生き延びるには、大陸の力を背景に中国化するしかない。陳水
扁時代に戻るくらいなら「中台統一」しかないと、外省人は考えている。

 4月末の中台協議で、中国資本の台湾投資解禁が合意された。これで人
民元と台湾ドルが両国で使えることになる。台湾の株式や不動産、買い物
に人民元を投入すれば、さらなる緊密化が進む。人民元で台湾企業を買収
することも可能になり、中国の製造業が技術やノウハウをレベルアップする
手段として、資金不足の台湾企業を買収することが可能になろう。中国にと
ってこれらの買収工作が続けば、台湾の中国化が一層加速するなど、一石
二鳥だ。

 昨年10月、馬総統の支持率はかつての70%から23%まで下落し、不支
持率は59%に上った。馬氏は人気挽回の手段として中国の力を借りるしか
ない。さらに景気刺激策として約4060億円の公共投資や、1万円の定額給
付金(消費券)を全住民にばらまいたが、これには不満を和らげる効果があ
った。


「一つの中国」への危惧


 表面的には、台湾の中国化が一気に推し進められている。台湾人のカネ
に対する執着心は根強く、中国がらみでビジネスが良くなれば「一つの中国」
でもよいとの見方もできよう。

 馬総統は就任以来「中国は一つであり、台湾は中華民国の一部である」と
述べている。選挙期間中「私は台湾人である」「任期中は統一政策を行わな
い」と言明したが、1年後「一つの中国」なる原則を受け入れた。

 民進党の蔡英文主席は「馬政権は不確定な目先の経済利益のために、
台湾の主権や民主政治という価値をないがしろにしている」と批判。ここに
きて馬総統の性急な中国傾斜に、選挙民の60%以上が「中国寄りだ」と危
惧している(TVBS調査)。


野党・民進党の没落


 民進党の蔡主席は「馬政権の進める対中関係改善と国際機関への参加
は、中国の求める『一つの中国』を認めたからだ」と述べている。しかし民進
党が台湾独立というなら、馬政権にブレーキをかける運動を行うべきではな
いか。民進党議員達の多くは競って中国詣でを繰り返している。彼らは台湾
国や民進党より個人の利益追求しか考えていない。

 今やなきに等しい台湾野党であるが、陳水扁総統時代は傲慢と腐敗の温
床であった。日本の野党・民主党は、小沢一郎という政治経験豊かな怪物
によって自民党に代わる政党を育てたが、このような2大政党制と政策によ
る政権交代が、台湾でまったく見られないとしたら不幸なことだ。

 民進党は「一つの中国」に反対してきたが、その政治的使命であるブレー
キ役を放棄し、機能不全に陥ってしまった。民進党や独立派は一体何を考
えているのか。台湾の次なる姿が見えてこない。


中台統一を語る


 5月31日、台湾政府の要人だった人物と会食した。彼は李登輝元総統の
優秀な側近の1人であった。以下は彼の意見だ。「馬政権になって台湾は日
増しに中国寄りになってきた。馬総統は人物は悪くないが、取り巻きが台湾
を中国に売り渡そうとしている。馬総統は党内で強い立場にないので、台湾
は取り巻き連中の意のままに動いているようだ」

「国際通貨基金(IMF)が発表した昨年のGDPによると、中台併せて4兆7

41億ドルになり世界第2位の日本(4兆9239億ドル)に迫る経済大国とな
る。中国の台湾吸収で、東アジアの中国支配が完成する。中台の経済融合
は、中国側のペースで予定通りに初期段階を完了した」

「これから統一に向けて、いくつかのクリアすべき問題がある。しかし馬政権
の中国化は、微笑外交と融合政策で台湾人を骨抜きにした。中国の実態は
『世界の工場』どころか人件費が高騰し、トラブル続きで商売にならない。韓
国の企業は競って逃げ出している。台湾が統一されると、一番影響を受け
るのは日本と韓国で、次なる標的は沖縄、尖閣、日本列島であろう」


台湾が中国になる日


 水面下では台湾の中国統一に向けた準備が着々と進んでおり、台湾世
論も中国の微笑外交に翻弄されている。昨年は高雄で20万人、台北市内
でも60万人規模のデモが行われたが、静かな海のようであった。台湾国民
は中国の微笑外交に翻弄されて闘争にならず、今ではデモに20万人を集
めるのも難しいのではないか。

 その一方で米国製兵器を中国に提供し、情報は中国側に筒抜けだという
軍事筋からの話もある。また中国側に台湾の秘密情報を流し、政府関係者
ぐるみのスパイ行為を行い国民を裏切り、国を売り渡しているのが、連戦氏
ら3人組だとの見方が広がりをみせている。

 台湾の政治家は皆駄目になった。民主国家を苦労して築き上げたのに、
一瞬にして中国に傾き、競って台湾を売り渡そうとする動きはいかがなもの
か。日本の政治家はまったく無関心で、他人事のようなそぶりを見せている。
しかし「中国統一」になれば台湾が「反日国家」になるのは確かであり、我が
国は厳しい局面に立たされよう。つまり日本外交は「先見の明」はあっても、
外交能力がないのである。

                                                                   次回は
6月18日(木)
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◆◆◆◆◆◆◆ 6月17日「時局プレス会議」ご案内◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 「中国に併呑されるか-馬英九政権下の台湾」
 講師/林 建良氏  「台湾の声」編集長

 去年台湾で、中国国民党の馬英九氏が圧倒的大差で民進党候補を破って
当選した。しかし世界金融危機の影響もあって国内経済は伸び悩み、期待さ
れていた中国からの観光客増や中国企業との提携もはかばかしくない。しか
も馬政権は発足以来、急速に中国への歩み寄りを進めており、台湾国民か
らも不満の声があがっている。「台湾は中華民国の一地方」と公言する総統
が、台湾の自由と安全を保てるのか。
 林氏は日本在住、李登輝元総統の信頼厚い台湾独立運動の中心的存在
である。発足1周年を迎える馬政権、そして台湾の現状と未来を問う。東アジ
アの政局・経済に興味のある方は必見だ。

日 時/平成21年6月17日(水)
        PM 6:00~8:00
会 場/日本外国特派員協会
      20F「メディアルーム」
      東京都千代田区有楽町1-7-1
     有楽町電気ビル北館20F 
     ℡03-3211-3161
参加費/8,000円(食事付)
お申込み先/℡03-5832-7231またはメール
shinwa@fides.dti.ne.jp      
  
  詳細はホームページ
http://www.fides.dti.ne.jp/~shinwa/でご覧下さい
事前申込のない方はご参加できません。ご注意下さい

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